クラゲ

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フリップを開いて、通話ボタンを押す。ユイちゃん、ミコ、またリスカしちゃったよぉ。甘ったるい声が聞こえた。 ミコちゃんだ。ミコちゃんは、彼氏と喧嘩をするたびリストカットをして、リストカットをするたび私に電話をしてくるメル友だ。 ミコちゃん、と呼ぶのに相応しい、女の子らしい言動。ころころと気分屋な性格から、彼氏もたびたび変わっているのだけど、そんなところも憎めないのがミコちゃんの魅力なんだと思う。 ミコちゃんの話を聞き流しつつ、冷蔵庫を開ける。中にはサンドウィッチとメモが入っていた。あっためてたべてねっ。コーヒーの香り。カップまでもが用意してあり、ネムの準備の良さに感心した。 ねぇ、聞いてるぅ?ミコちゃんの声に、はっとして、聞いてるよぉ、と言い返す。それでね、そのバーテンさんが格好良くて……。いつの間に、バーテンさんの話になっていたのだろうか。適当な相槌も良かれ悪しかれだ。 サンドウィッチを取り出すと、冷たいままのそれをかじる。温かい食べ物よりも冷たい食べ物が好きだった。カップに注いだコーヒーには、氷を入れる。 あ、もうこんな時間!ミコ、学校行かなくちゃ。つられて時計を確認すると、針は十二時を回っていた。私も何かをしなくては。 じゃあね、聞いてくれてありがとう。電話は半ば一方的に途切れ、あまり身を入れて聞いていなかった分、ほっとした。 冷たいコーヒーと、冷たいサンドウィッチ。主婦向けのワイドショーに、読みかけの雑誌。さて、何をしよう。バイトをやめてしまって早三日。なすべきことがない、というのも困りものだった。
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