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カスミに付き従い保健室へと向かう中、彼女の小柄な後姿にジッと見入りつつ…
「む~ん…」何の気なしに小さな呻きを溢す俺だ。
この状況で受けた安堵感が腑に落ちなかったのだ…
と、それを耳にしたのだろう。カスミはピタリと足を止めた。そして数秒のタメを置き…
クルっと振り向くと…
「ほらっ!も~少しで保健室なんだから頑張れっ!」胸元で両の拳をグッと握り…励ましを口にした。
呻きを体調の悪さから来るモノと受けとめてくれたのだ。
そこは良かった。だが、その仕種の愛らしさに…ここに来て初めてバッチリと視線を合わせてしまった。
彼女に対する警戒心から眼を合わせる事は避けていたのだ。
カスミは微笑んでいる。
だが無言…
数秒の見つめ合いがあり…無垢な笑顔のプレッシャーに耐え切れず俺が声を捻り出した。
「お前さ…幽霊だよな…」と…様子を見るつもりが思わず本音を口にした俺だ。
それがマズかった…
カスミは俺の一言に一瞬、寂し気な表情になり…
明暗を不規則に繰り返す白と黒の世界を猛然と走り続けている俺だ。
まるで数台のフラッシュライトに照らされている様である。
そこに浮かび上がる辺りの状況は既に懐かしの学舎と呼べる状態ではない。
壁の至る所にひび割れが入り…自らの足で降りて来た筈の階段も目にした筈の昇降口も消えてしまっていた…
俺は何処までも続く廊下を…ひたすら走っているのだ!?
あの時、俺の言葉に悲し気な表情を見せたカスミは、再び微笑みを浮かべ…直後にその場でグズっと溶け崩れたのである!?
そこからは言うまでもない。
猛ダッシュでその場を後にし昇降口を目指す俺だったが…
それは既に消え失せており今に至る。
右腕を捕られた時に予想はしていたが…
やはり、この世界は彼女とリンクしているのだ。
数キロは走っただろう時…
今にも朽ち果てそうな壁が続くだけだった廊下の数十メートル先にドアを発見した。
そこから競出す札には…
《保健室》の文字が掲げられている。
オイオイ…
あからさまに怪しいじゃない…数瞬も迷わず扉のスルーを決意する俺だった。
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