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その為、彼女の口から自身の現況を打ち明けるリスクは避け…自然な形で弁天様の待つ保健室へと導く必要があった訳だ。
まぁ…目覚めた後のドタバタはさて置き、結果として弁天様の許へと辿り着いた今、とりあえず身の安全は担保された。
と、ここまでは良しとして…
魂で構成された現世ならぬ空間が実際には何処に存在するか…感の良い奴ならば既に気付いているだろう。
「ここはのぉ…地球人で言う所の『あの世』じゃな。正確に言えば…フォ~ス・ディメンションじゃよ…」権爺の言葉が思い出された。
言葉は違えどアカシックレコードもあの世である。
つまりは同一…俺達は巡り巡ってスタート地点、えいほ作戦室に戻ったのだ!?
但し、裏とでも呼ぶべき四次元倉庫にだが…
光輝く巨大なシャボン玉が徐々に萎んで行く…
俺はそれを瞳に焼き付ける様…ジッと見据えていた。
先のカスミとの会話、そして弁天様の言葉にに想いを巡らせていたのだ…
「私、冴木君の事…好きだったのよ…」
「実は知ってた…」
「なーんだ、バレてたんだ…」
「ごめんな…」
「ううん。私はまた逢えて嬉しかったから…」
「またいつか会おうな…」
「うん、そうよね」言うとカスミはクスリと笑った…
『お前には知っておかねばならぬ責任がある…。冴木功太よ…一度でも輪廻の輪から外れた者は…輪には戻れぬ。この意味が解るか?あの者はその事を周知の上でお前を救ったのじゃ。これから心して生きるがよい…』淡々と語られた弁天様の言葉だった…
カスミの魂は、あの輝く球の中に留まっている。
やがて…
収縮を続けていた光球は圧縮されたパワーを一気に解放する様に音もなくパッと飛び散ると…赤黒い夜空に大輪の華を咲かせた。
まるで季節外れの花火の様に…
どれ程の時間、その場に留まって居たか。
我に帰ったのは…
『冴木功太よ、進まねばならぬのだぞ…』と…弁天様の声に因ってだ。
「そう…ですよね…」力無く返事を返した俺だが…続けて…
「そうですよねっ!そうだよ!進まなきゃダメだ!」言い様に両手で己の顔をバチンと挟み気を吐いた。その時だ…
俺の頬を何かが優しく撫でた。風ではない…
俺達は弁天様に因って作り上げられたフィールド内に居る。
と…
『うむ…』弁天様の呟きの直後に俺の鼻腔を掠めたのは…仄かな霞草の香り。
『姿形は無くとも傍におるか…全く!幸せな男じゃ貴様は…』その言葉に…
「そうっすね…」とだけ返す俺だった…
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