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久々のツッコミを終え意気揚々と額を拭った俺だが…
『さて、そろそろ見えて来よる頃合いじゃ…』弁天様の有難い御告げが脳内に響くと同時に遥か彼方から飛来する物体を視認した。
かと思った次の瞬間には俺の眼前でピタリと停止したそれは…ときわ荘だ!?
間髪入れずに扉が開き…
「お帰りなさぁ~い!遅かったから迎えに来ちゃったわよ~!あ、でも…こっちから出向いたのに、お帰りなさいは変かしらねぇ…」と、ボロアパートの二階の廊下で始めは明るく、終いにブツブツと悩み始めたのは…当然お袋である。
突然の状況に唖然とする俺の目を醒まさせたのは…
「Oh~!アレが…ジャパニーズのスターシップデスカ…?」背後から上がったフリードマン少年の、勘違い甚だしい呟き声だった…
お袋に因って案内されたボロアパートの一室、201号室の扉を開いた途端に…
「お、オヤジッ!?」思わずガナリ声を上げた俺だ。
親の妙な威厳を誇示する為か…キッチン中央で直立不動のまま腕組みをしているのは、当然…親父こと冴木功人である。
最後に会ったのは中学生時分。一目見た瞬間、少し小さくなった様な印象を持ったが、それは俺の成長による錯覚だろう。
一声上げたきり固まる俺に向けて…
「功太…」と、真摯な面持ちでポツリと呟いて黙り込む。
その姿は十数年振りでの息子との再開、更には俺の成長に胸を熱くしているかの様に見えた…
が!直後に発した声は…
「良く来たなぁ~!こないだより少し痩せたよなぁ~!大変だっただろ~?ハッハッハッ!」と…軽い口調でのた回る!?
まるで部活の夏合宿から帰った息子を迎える父親の様な口振りに呆然とする俺を横目に追い討ちを掛けたのは…
「迎えに来て貰っといて悪いけどなぁ、俺は死んじゃってるから母さんを宜しくなっ!」と…その健康的な外見とは不釣り合いな言葉だった。
転送君実用化試験の最終段階を迎え、ドアへと飛び込んだ親父は俺と同じく並行世界に放り出されたのだが…
そこは持ち前の機転で難題をすり抜け、時には環境に順応し…各空間を攻略し続けたのだ。
本人曰く…
それはそれは数年間を要する大冒険活劇だったそうだが…
そんな彼の命運が尽きたのは大気圏突入時である。
あっと言う間に燃え尽き…気付いた時には霊魂となった状態だったと言う。
しかし、そこで終わらないのが冴木功人だった…
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