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現世に未練たっぷりの親父はアノ世で様々な事象を試し続け…終いには独立した魂、つまり幽霊となる事に成功したのだ!?
そしてアノ世から脱出…
ここまでくれば後は楽な物とばかりに、ウキウキ気分で現世をうろつく彼を待ち受けていたのは奇妙な世界だった…
えいほの平職員だった筈の嘉山はテレビの中で無敗記録を誇る大横綱と報じられ…
瀬戸内の無人島では人外の者…自らの活躍で隔離保護した筈の赤鬼が発見されたとの報道。
慌てて飛んだ自宅で待っていたのは愛する妻と息子ではなく…怪しげな実験を繰り返す関西弁の美少女!?
愕然となる親父だったが、即座に状況を推察出来るのが彼の彼たる由縁。
己れが未だパラレルワールドの連鎖から抜けていないと悟ったのだ。
その後、先ずはアノ世に戻り…自らが学生時代を過ごした、ときわ荘を具現化するとソレをベースとして、そこから再び試行錯誤を繰返し、中途半端ながらも何とか時空間の突破に成功したのだ。
何故、中途半端か…
ときわ荘201号室の黒い影と言えば理解して貰えるだろう。偶然か必然か、前所長に因って《俺達の世界のアノ世》に具現化されたときわ荘とリンクし…次元間のドアを《たまたま》作り上げたものの、その次元間トンネルは通過した者の原型を維持し得なかったのだ。
幽体である親父でさえ原型を留める事の出来ないドアである。生身の俺達が通過した日には…想像するだけでも恐ろしい結果が出る事請け合いだ。
話を戻し…
物言わぬ黒い影として現れた親父は己れの意図を伝えるが為…あれやこれやと小細工を施したが、怪奇現象として片付けられ今に至ると言った所だ。
因みに…ときわ荘地下リゾートで俺のピンチを救うべく、鯉を気絶させたのは彼の仕業だそうだ…
この長い話を総括するに…
救い出すべき親父は死んでおり、更には行くも引くも出来得ない状況の俺達である…
ジョロジョロ~っと…
急須から湯呑みへと勢い良く茶が注がれた。
俺はそれを口に運び、一口飲みフゥっと一息吐く…
俺と両親、そしてフリードマン少年の四人で小さなテーブルを囲っているのだが…いかにも重苦しい雰囲気だ。
あれこれ議論は尽くした物の…帰る術を見出だせずにいるからである。
と、誰しもが無言のまま30分も経過した頃…
『よしっ!アタシが空間の壁を消しちゃうわっ!!』突然、静寂を破ったのは前振り無しで顕現化した破壊の化身だった…
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