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約一名を除いてボロボロのえいほ陣を対面に、ゆったりと話す初老の男性…
年の頃は60代前半。品のある顔立ちにキッチリと手入れされた鼻髭を蓄え、金ボタンの紺ジャケットに折り目正しいベージュのスラックス。
見るからに糊の効いたワイシャツで、上着の胸ポケットにはチーフを挿し…
ノータイのベーシックスタイルだが総て一流以上の物だろう。上背もあり風格を備えたその雰囲気は、戦時中日本の上級軍人を想わせたが、目元は優しさを湛えていた。
埃一つ付かないその姿は…約1時間程前にサイドワインダーをブチ込まれたとは思えない紳士っぷりである。
そんな男性の問いかけに…
「そ~ゆ~オマエは誰やっ!?いきなり他人んちの庭にドカンと現れおってからにっ!」と…京ちゃんは咬み衝かんばかりで語気を荒げた。
その怒声は続き…
「地球上!ほぼ総てのエイリアンはなぁ!ウチで面倒見とる!オドレみたいな波形はデータに居らんのんやっ!つまりは既存種とちゃう!!敵ぃみなすに決まっとるやろっ!それを~!」まだ文句は尽きていないのだろうが…巻き舌で捲し立てた言葉の勢いでレンズのひび割れがピシッと伸びポロリと落ちた!?
それを切っ掛けで更にキレたのか…アフロヘアーを抱え天に向けて言葉に成らない怒りをガーガーと吼え捲る彼女だ。
それを横目に…
「うむ、確かに冴木所長とは個人的な付き合いであったかな…それはコチラが軽率だった…。しかし正式な謝罪は後とさせて戴こう。先約事項があるのだ。ときわ荘とやらに案内を頼む」男性は張りのあるイイ声で言い切ると、ソファーを立ち上がったのだった。
程無く、ボロアパートの前に立つ一行である。
男性は、その後まともに口を開かず、フムフムと頻りに小声を発しつつ階段を登り、家主不在の201号室前でピタリと止まった。
そして躊躇なくドアノブを捻ると室内へ足を踏み入れた途端…「ふむ!」一声上げると後ろを振り返り、ゾロゾロと追従していたえいほ職員一同に対しキッパリ一言…
「この場所で間違いないっ!!穴が開くぞっ!!」と、全員がハテナな宣言をすると同時!?キッチンの中央、目線程の高さに人の頭程もある黒い《歯形》が現れたのだ。
次の瞬間…
世界の総てが消え去った…
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