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『あと、二時間』
とある平凡な街の一角。
その一角のさらに一角。
何の変哲もない家では騒がしく着替えをする人がいた。
お母さんが焼いてくれた食パンをかじりながら、ばたばたと服に腕を通す。
遠くのキッチンからはみっともない、とお母さんが言う。
つぶやいたような言葉は当然耳に入ってはいなかった。
それどころではなかったのだ。
忙しく着替え、寝癖さえ直さないその人の名前は、曾根川ひかる。黒髪は短く整えられており、童顔―…
もとい、可愛らしい顔つきをしている。
性別はわからない。
いや、本人と家族しか知らない事実、といったほうが正しい。
ひかるの友達でさえ性別なんて知らなかった。
何せ、中性的な声、体型、顔。
その全てが人を困惑させる容姿なのだ。
だが、本人は全く気にしていないようだ。
結局ぴんっと跳ねた寝癖を直すことなくひかるは最後のパンのかけらを口に放り込んでリュックを背負って家を飛び出した。
「行ってきまーす!!」
律儀にそれだけを言い残すと、ひかるは全力疾走で街へと飛び出した。
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