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…その頬には、涙が伝っていた。
哀しすぎる表情に、ひかるは思わず伸ばした手を止めてしまう。
その時、電車がホームへと入ってくる。
そして彼女は。
その電車へと向かって、跳んだ。
ぐちゃ、り。
線を越え、もう一歩踏み出した少女の体は、虫けらのように衝突し跳ね飛ばされた。
大量の血を、撒き散らして。
そしてその血はひかるの頬や、少女の腕を掴み損ねた腕へ降り懸かる。
―…あれ?
なに、これ?
吹き飛ばされた瞬間の少女の体は、変な音がしなかったろうか?
それは、肉の裂ける音。
それは、骨が砕ける音。
それは、少女の短い悲鳴。
鮮明に脳裏に蘇るそれらに、ひかるはただ止まった。
(……え、だって…ねぇ?)
信じられなかった。
人が、少女が目の前で死―…
その続きの言葉を、考えることすら出来なかった。
唐突な吐き気がひかるを襲い、青ざめた顔で口を押さえた。
なに?
おかしいよ。
―…そう。
おかしい、のだ。
周りの人達は何の反応もしない。それどころではか、少女が自殺した事でさえ、まるで気付いていないようだった。
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