はじまり、はじまり。

9/53
前へ
/53ページ
次へ
「………何で……?」 ぽつりと呟く。 だがひかるの言葉なんて聞こえていないと、電車のドアが開く。 雪崩込む、人々。 取り残されるひかる。 訳が、分からなかった。 少女は引かれ、死んだはず。 なのに人々は―…? はっとして辺りを見渡す。 そしてひかるは一人の男性へと駆け寄った。 その人はひかるの隣で、真横で電車を待っていた人だった。 彼なら見たはずだ。 「あの…っ!!さっき、女の子が……っ!!」 「………?」 「電車に引かれましたよね!!?」そう口走ると彼は、驚きを隠せない様子で目を剥いてひかるに言った。 「何言っているんだ?」 そう言ってひかるを軽蔑するような目で見やり、小走りで電車へと駆け込んだ。 ひかるはへたり、と座り込んでしまう。 「………何で?」 そっと目線を落とす。 視界に入ったのは、血を浴びて真っ赤な服… ではなく、いたって普通の服だった。 血なんて、跡形もなかった。 いや微塵にも残っていなかった。力の抜けた足は驚きで奮い立ち、ひかるは服の色んな所を見る。 確かに血がついた。 頬にも。 頬に触れてその手を見る。 だけどやはり血の跡はなかった。呆然と立ち尽くすひかる。 (どうゆうこと…?)
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加