貸したりない貸し本屋

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「でしたら、こちらの作品リストから読みたい商品をお選びください」 娘が満面の笑みでよこしたファイルの中には、本の名前と作家、発売日が書いてあるだけのリストがあった。 ジャンルも写真もない。 私は驚いた。普通客が実物を見て、選ぶのではないだろうか? そう疑問に思ったが、個人経営である以上、この店のルールに従うしかないのだろう。 よく分からないながらに私は注目してみることにした。 「この、肉欲晩餐会という本をお願いできますか?」 タイトルからして私の好みの本であろう。 娘は、はきはきした声で「かしこまりました!」と言うと、パイプ椅子から立ち上がった。 娘は本をまたいだり、間を擦り抜けたりしながら、ひょいひょいと奥へ進んでいく。 娘の腰の高さまで平積みされた本の山から一冊引き抜くと、娘は再びひょいひょいと戻ってきた。 「はいどうぞ!」 娘が差し出した本の表紙に私は驚愕した。 その表紙は、男性同士が裸で絡み合う、9割が肌色の同性愛の官能小説であった。 私はおそるおそる手を出して受け取る。 「ありがとうございました!貸し出し期間は1時間以内となっております。代金は30円になります」 私は再度驚愕した。今この娘は何と言った?貸し出し期間は1時間以内? 「あの……?1時間とおっしゃいましたか?」 目を丸くし、声を震えわせながら尋ねた私に娘は不思議そうな顔をした。 「はいそうですよ?だってそんな薄い本、1時間で十分でしょう?私は本を貸し与えているのです。その本の持ち主は私です。全ては私によって決まるのですよ?」
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