もう物語りは始まっていた。

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「別に、おじさんが悪いわけじゃないよ?」 少年は言った。 まだ幼いとさえいえる顔立ちは中性的で男の子とも女の子とも取れる。 ・・・ここでは少年としておこうか。 だが、それさえどうでも良くなる特徴を少年は備えていた―――― 「僕も『お願い』されなければきっとおじさんと一生かかわりあうこともなかっただろうね」 『隻腕』の少年が居るのはとあるビルとビルの狭間の一角。 薄暗い路地裏は彼の明るい表情とはずいぶんと不釣合いな印象を抱かせた―――― 「だけど、ごめんね?おじさんが生きていると困る人が結構な数居るんだ」 彼の眼前には誰も居ない。 彼自身の視線も地面に対して水平ではなく水平よりもかなり上を向いていた。 何のことはない、そこに一人の中年の男が宙に文字通り浮いていたのだ―――― 「死因は酒に酔っていたため誤って窓から転落。救急隊員の必死の手当も虚しく死亡。 新規大口取引の受注成功に普段よりも大量の飲酒をした模様・・・。て、言うのがおじさんの死に方ね」 中年の男は何の支えもなく宙に浮いていた。不自然極まりない。 だが、少年のないはずの左腕がちょうど中年の身体と一直線で結ばれていた。 男の声は出ないようだ。 首がなぜか声帯を潰すほど深く、不自然に窪んでいた。 ちょうど左手で首をつかまれているように――――― 「おじさんがしたのはごくごく一般的な企業努力ってやつかな?ライバルを蹴落として自分の会社に入札されるように頑張っただけだよね。でも――――」
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