もう物語りは始まっていた。

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「――――と、言うわけで無事にお仕事終了です」 少年が次に現れたのはとある喫茶店であった。 落ち着いた雰囲気に落ち着いた内装は一目で金がかかっていることをうかがわせる。 当然大衆が利用するような安いメニューは存在せず、どのメニューもゼロの数が一つも二つも多かった。 「確認したわ。後続のメンバーから死亡の確認も取れたわ。お疲れ様、ヒカル」 少年――――曽根川ヒカルの前にはブロンドの淡いウェーブのかかった髪をした美しい女性が優雅な仕草で紅茶を楽しんでいた。 服装からも仕草からも上流階級のお嬢様であるように見えるし事実、上之宮怜奈は代々政治家や多くの企業を経営してきた生粋の『お嬢様』なのであるが。 「これでおじい様の敵がまた一人減ったわけね」 彼女は痛く上機嫌であった。 敬愛する祖父の行く手を邪魔する不届き者がまた一人減ったわけなのだから。 「いつも苦労を掛けるわねヒカル」 店の内装に合わせたのかやはり落ち着いたカップ―――目立たないがやたらと細かい彫刻が施してあり、真面目に働くことが馬鹿らしくなるほど高価な―――から顔を上げた怜奈は美しかった。 滲み出る高貴な血の匂い、その振る舞い、自信に溢れたその表情。全てが彼女をまばゆく照らしていた。 「珍しいね、怜奈さんが人を褒めるなんて。いつも絶対そんなことしないのに」 ヒカルも彼女と同じ紅茶が目の前に置かれていたがそれには手をつけなかった。 ただ皮肉気に言った。
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