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「隊長って呼ぶなよ」
少女の素直な感謝に対する気恥ずかしさと、自分が隊長と呼ばれるむず痒さから照れたように頭を掻く。
「それにしても……」
突如、青年の表情が呆れるという顔に変わった。
「何をやってるんだ、お前は?」
表情と全く同じ声の調子に、少女はムッと頬を膨らませて、
「魔法でターゲットを倒そうとしたに決まってるじゃん」
それを聞いた青年ははぁ~っとあから様なため息をつき、今度は呆れ果てた。
「……魔法なんて成功した試しが無いお前がか?」
「当然。私は魔法使いなんだから」
自信満々に胸を張って答える。
「あのなぁ……」
青年はそんな少女の態度に困惑し、ガリガリと頭を掻き毟った後、諭すように、
「成功の見込みがないものに頼るな。戦場……まぁここもそうだが、強敵と当たれば死に直結するぞ」
青年の説教には聞き飽きているのか、少女は不満げに口を尖らせる。
「成功しないなんてやってみるまで分かんないじゃん。それに、だめもとでも挑戦すれば成功するかもしれないでしょ?」
「いや、だから――」
少し的外れな回答をする少女に突っ込もうと口を開いたとき、通信機が作動した。
『隊長、狼男はあらかた撃破しました。其方はどうですか?』
そこから流れたのは起伏の少ない声だった。
「こっちは終わったし、無事だ。そっちは大丈夫か?援護は?」
『問題無いです。後三分でおわ――』
その瞬間、通信機からドンッという衝撃音が起きたかと思うと、メキメキ……と軋む音、バキバキと枝が折れる音が聞こえた。ズーンという内臓を揺らすような振動と音と共に、ワオオォォーーンという今までに無い音量の雄叫びが通信機と真っ黒な森の先から響き渡る。
「親玉かなぁ」
一拍の沈黙の後、少女のやはり緊張感に欠ける声。
「……だ、大丈夫か?」
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