夢喰われつつ、神鳴る。

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 朧月が消えた。街灯の明かりがいつもより眩しく見える。地鳴りのような轟きと共に空間が裂ける。夜風ではない、もっと冷たい、乾いた風が抜けた。  通い慣れた校舎に肩を並べた、馬鹿でかい真っ黒な化け物。俺は息を短く吐いた。鼓動が耳の奥で響いている。異常に長い腕。脚部はなく、いやあるのだろうか、よく見えない。目を細めるがこの暗さだ、胴から下が地面に埋まっているように見えるけれど、はっきりとは確認出来ない。  落ち着け。余計な事は考えるなよ俺の頭。今考えるべきなのは――あいつらの事だけだろう?  俺の両目は自ずと校舎へ向けられた。当然化け物の巨体に遮られる。その先にいるあいつ――紅涙(こうるい)を思う。そして彼女が立ち向かっているであろう、ユメクイ共を。待ってろよ。こんな化け物さっさと倒してやるからなぁぁ!? 「じゃま」  面倒臭そうに吐き捨てる萌黄先輩が、俺の腹部を躊躇いなく蹴り飛ばし、結果、俺は数メートル後ろに吹っ飛ばされることとなった。直後振り下ろされた巨大な右腕を両手で防いだ彼女の身体は、なんとなくいつもより小さく見えた。つか、普通加減しませんか? と激痛に身悶えし呟こうとするも、ただ溜め息がこぼれただけであった。  でも嫌じゃない。うーん末期。華奢な身体であの腕を防いでいる萌黄先輩は、なんというか、見慣れてしまったというか……、不思議と違和感はなかった。いつも通りにイヤホンを垂らし、ガムを噛み、化け物の腕を引き千切り――って、ええぇぇ!?  えい、と気の入らない掛け声と共に引っこ抜かれた腕が、地面にずしりと落下する。うお、とんでもない衝撃だ。地震が起きたのかと錯覚するほどの振動。同時に化け物が悲鳴を上げた。いや、これは悲鳴なんて可愛いもんじゃない! 絶叫! マジでやばいって!!  しかし、俺の知っている萌黄先輩はこんな大音量のへヴィメタルなんぞに耳を塞ぐはずもなく……化け物への追撃を開始したのである。信じられねえな。  いや……、と俺は先輩の勇ましくも可憐な暴力に見惚れながら、ようやく気付く。信じられねえのは俺だ。いざ戦闘となると足がすくむ。情けねえ。握り締めた拳を引き締める。俺が真っ先に行かないでどうするんだ、先輩は『絶対に倒せない化け物』に立ち向かっているっていうのに、唯一あいつらを倒せる俺が、こんな腰抜けでどうするんだよ!
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