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振り下ろされた槌からは火花が飛び散り、カンッと鐘を鳴らすような甲高い音の残響が、恐ろしいほど熱気の籠った鍛冶場に浸透していった。
片田舎の外れにでもあるような小さな鍛冶場。
薄暗く、黒い炭汚れが目に余るほど目立ち、お世辞にも広いとは言えない室内。
そんな室内の勢い良く燃え盛る炉の前に腰を下ろし、片手に握った柄の長い鉄鋏で形が整い始めた“それ”を押さえ、慎重に、それでいて時折大胆に、もう片手に持った手槌を振り下ろす青年がいた。
青年の額には汗が幾重にも伝い、まるで何かに取り憑かれているかのように、全神経を集中させ、作業に没頭している。
いつか呼吸を忘れてしまうのではないかとまで思わせるほど、青年の瞳には“それ”しか映っていないし、鬼気迫る何かを感じさせた。
「よし……!」
仕上げと言わんばかりに最後に強く手槌で打ち付け、数百度の熱を持って赤く変色する“それ”を鋏で挟んだまま水槽の中へと投じた。
水は激しく泡立ち、巻き上がる水蒸気が鍛冶場の湿度を高める。
ふつふつと水が煮立っているのが収まったところで、青年は水槽から“それ”を引き出す。
「――――やっと」
急激に冷えされた“それ”は鉄特有の灰色ではなく、全体的に純白を帯びていた。
鉄でもなければ金属とも思えない物質で作られような“それ”は一振りの剣だった。
まだ柄もない、剣と言うには早すぎる、両刃の刀身だけのそれを青年は期待に満ちた瞳で吟味する。
何度も、何度も。角度を変えて、眺めて。
そして、青年の口元が緩んだ。達成感にも似た笑みを浮かべ、自然と言葉が漏れ出ていた。
「やっと、完成した……。僕の最高の剣、僕の他のどの武器にも負けない剣――僕の思い描いた世界を体現してくれる剣を……僕はやっと打てたんだ……」
感涙を滲ませながら、滴る汗を拭い取るのも忘れて、しばらく青年は自身の作った剣を慈しむように見つめ続けた。
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