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『当本船は安定域へと入りました。ロックを解除致しますので乗客の皆様はどうぞ船内を御自由に…』
身体を固定しているベルトのロックが外れる音がした。
ひかるは早速立ち上がり、背伸びをした。背骨の辺りからぽきぽきと音が聞こえてくる。二等席とはいえ、あまりにも座り心地が悪い。着陸までの間だけでも離れていたかった。独りという不安を紛らわせるためでもある。
窓の側に寄ると教科書でしか見たことがない丸い地球が暗闇の中に浮いているのがそこから見える。ひかるは自分が改めて宇宙にいることを実感した。
「わぁ~!凄ぉ~い!」
ひかるが横を見ると、まるで子供のように顔を窓に張り付かせながら外を眺める女がいた。
女はキョロキョロと宇宙空間を眺めている。ひかるも初めての宇宙に興味が無いわけではないが、この女の仕草がそれを上回ってしまった。
女が急にひかるの方を向いた。
ひかるは罰が悪くなり、自然な感じで目を反らした。視界の端で女がこちらに向かってくるのが分かる。
ひかるは女に背を向け、そこから立ち去ろうと歩き出した。
パタパタと軽く走る音がひかるの耳に入ってくる。
「ねぇねぇ、ひょっとして君もバラックスに?」
女はひかるの横に来ると、顔を覗き込むようにして話し掛けて来た。ひかるは思わず立ち止まった。
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