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些細なことだった。
だがきっかけはそれほど重要じゃねぇ。
知れば知るほど無意識に、無防備に俺の中に入ってくる。
そいつの名前を知ったのは、それから随分後のことだった。
予感
ガシャン、という音が店内に響き渡った。
「…」
お世辞にも旨いとは言い難いありきたりな飯を食っていた手を止め、音のした方へ目線だけ上げて見る。
次に男の怒鳴り声が店に響いた。
(…くだらねぇ)
舌打ちと共に一気に気分が悪くなる。
大方店員が失敗でもしたんだろう。
客の男の怒りは尋常じゃなく、興奮し過ぎて何言ってんのか分からねぇ。
それまで賑わっていた店内が一気に雰囲気の悪いものへ変わった。
俺自身も食う気が失せ、大半残したまま煙草へと手を伸ばす。
小せぇことで怒鳴り散らしやがって…こんな所でストレス発散してんじゃねぇよ。
煙を肺に入れながら、世の中くだらねぇ奴等ばかりだと唾を吐いてやりたくなる。
大概自分もそうだと思えば尚更だ。
「うっせーんだよ」
「クソ親父が、死ねよ」
隣りで連れの奴等が、怒鳴り散らしている男に向かって野次を飛ばし始める。
だが面倒くせぇから黙っとけと制止した。
こんな場所早く出ればいいだけの話だ。
そう思い、煙草を揉消しながらふと目線を上げると、一人の若い店員が目につく。
そいつは男に向かって深々と頭を下げていた。
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