始まる夏

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まだ8月になっていないのに、太陽は容赦なく俺の肌を焼く。 UVカットのされたガラスでも、熱い光は差し込んでくる。 頭上から降り注ぐ冷風がなかったら間違いなく熱中症になっていただろう。 ありがとう人類。 エアコンを開発してくれてありがとう。 誰にというわけでもないお礼を頭の中で何度も繰り返していると、ようやく車が止まった。 「よく来たわね。疲れたでしょう。少し休んで行きなさいよ」 「いえ、大丈夫ですよ。これから帰ってやらなきゃならない仕事もあるんで」 家の前で出迎えてくれたばあちゃんに、父さんは軽く会釈をしながら誘いを丁寧に断る。 アスファルトと違って太陽の光を反射させない砂地の道、近くに見える山。 「久しぶりね涼ちゃん」 昔から若作りで、そんなに目立たない小じわを強調させて笑う。
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