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せめてもの抵抗で顔をぶんぶん左右に振るユリだったが、雪螺はそんなものもろともせずに、後頭部で窮屈そうに纏められたユリの黒髪を解き放った。
短く声を上げたユリは、微笑ともとれる涼しげな顔で自分を見下ろす雪螺を強く睨む。
この寝癖だらけの剛毛を纏めるのにどれだけ苦労したと思ってんのよ。
「ああ、そちらの方がいいですよ」
「あんたがよくても私がよくないっ!どうしてくれんのよ、もう結び直してるヒマないじゃない!!」
「そのままで行けばいいじゃないですか」
「…ああもうっ」
なんなんだこいつは!
ユリは緩んだ雪螺の手を怒りを込めて振り払って、髪を手櫛で解きつつ玄関に向かった。
学校に遅刻してしまう、と言うのもユリが急いでいる一つの理由なのだが、もう一つの理由の方が大きいのかもしれない。
早くこの自己中心的な悪魔から離れたい。
「あ」
玄関でしゃがんでスニーカーを履こうとして、肝心なものを忘れていることに気付いたユリ。
音もなく自分の後ろを着いてきた雪螺に向き直った。
「眼鏡返しなさいよ」
。
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