16人が本棚に入れています
本棚に追加
まだ水が滴る髪をガシガシと乱暴にバスタオルで拭きながら、火照った頬を冷ますために窓を開けた。
秋の始まりの夜風は、心地よく風呂上がりの体を撫でていく。
「んー…?」
それほど建物の多くないこの方角は、月がよく見える。
いつもは綺麗な金色だが、今日は違った。
「なんか…あかい?」
誰もいない室内に、ユリの独り言が響く。
橙色に近い月は見たことがある。
でも、これは…。
「なんだか…気持ちワル…」
赤色、朱色、紅色…。
どう言っていいかわからないほど、あかい月。
頭に乗っけていた湿ったバスタオルを肩に羽織り、ユリは軽く身震いした。
体は冷えきっている。
「…ま、大したことじゃないよね」
自分を安心させるためそう呟き、開け放った窓を閉めようとした。
瞬間。
「え…」
強かに床に打ち付けた背中が痛い。
ユリの思考は飛んで、驚きの言葉しか出なかった。
ヒラヒラと黒い羽根が顔の横に数枚落ちた。
「え」
「…失礼」
ユリに覆い被さっていた影がゆっくり起きた。
穏やかな声を発した人の形をしたそれには、この世の人間にはあり得ないものがついている。
「羽根…」
「おや、冷静ですね」
。
最初のコメントを投稿しよう!