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そう、大きな黒い羽根。
バサリと羽ばたかせたら、空も飛べそうなほど大きな。
人の形をしたそれは、流麗な動作で立ち上がって、ユリに手を差し出した。
幸い今日は天気がよくて、月明かりだけでも十二分に相手が確認できる。
改めて姿を凝視すると、シャツ、ベスト、ズボン、靴まで黒で統一された燕尾服だ。
例外は差し出された手の手袋と髪の毛が白なのと、澄んだ金色の瞳。
細身の体つきだが、女ほどの柔らかさは感じさせず、声からして男だということがわかる。
「お手を」
端から見れば硬直しているユリに痺れを切らしたのか、人形の男が投げ掛けた。
「…あ、はい」
なに、この人。
そもそも、人間?
そんなことも、一応考えた、が。
あまりのショックにどこか大事なところがすっぽ抜けたのだろう。
ユリは警戒心も抱かずサラリと手を差し出した。
「わ…」
グッと手を引かれると、軽々と体か浮き上がる。
服のラインの細さからは感じさせない、力強さ。
ユリは一瞬ドキリとして、それから否定するようにかぶりを振った。
得体の知れない相手にときめくなっ。
。
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