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足元が安定すると、背中に羽根を持つ男はユリの手を放した。
意外と背が高い。
一歩後ろに下がり、丁寧にお辞儀をする。
また流れるような綺麗な動作。
「先ほどは、大変失礼いたしました」
「あ、いえ…」
どうしても背中に目がいってしまう。
返事もそこそこに、普通じゃ絶対あり得ないものを見つめた。
不思議と美しい、闇色の羽根を。
思いたくも、信じたくもないけど。
「…悪魔?」
「はい、ご存知でしたか」
説明する手間が省けてよかった、と苦笑する男は、短く何かを唱えて羽根を消した。
しまった、悲鳴をあげるタイミングを完全に逃していまった。
スッと音も立てずに、男がユリに近づく。
気付くと、金色の瞳がユリを覗き込んでいた。
間近で見る整った顔に脈打った心臓と、そのあと背中を駆け上がってきた全く別の感覚。
逃げなきゃ、捕まる。
「っ…!!」
弾かれたように体ごと顔を背け、玄関に向かって走り出す。
電気は点けてなかったから、窓際以外は暗い。
だが、ユリには住み慣れた部屋だ。
見えなくても、家具の配置、壁、ドア、全部わかる。
悪魔がどんなものか知らないけど、ユリには逃げ切れる自信はあった。
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