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すぐに打ち砕かれたが。
「っ…」
「おかしな人ですね、悪魔相手に逃げようなんて」
ユリは硬直した。
クックッと押し殺した笑い声が耳元で聞こえる。
あと3歩で玄関のドアノブがひねれたのに…!
後ろから両手が使えないように抱きすくめられて、女にも負けないくらい柔らかな髪が肩口に這う。
「私の話を、聞いてくれますね?」
耳元で囁かれた甘美な声には、肯定の選択しか含まれていなかった。
*
「主人のイタズラで、こちらへ堕とされましてね」
時刻は12時を過ぎている。
飲み物を要求した悪魔は、ユリがコーヒーを持ってきたところで話し始めた。
ちなみにユリはココアだ。
電気を点けて、リビングとも呼べるユリの寝室で2人で向かい合って正座した。
「暫く向こうには帰れなさそうなんですよ」
なんだかいろいろすっ飛んでる。
目の前でのうのうとコーヒーを飲んでるコイツは本当に悪魔なのか。
悪魔がなんでわざわざあたしのところに来たのか。
それとも、疲れていて幻を見ているのか。
…いや。
全部リアルな感触だった。
引き上げられた手、密着した体、心臓の鼓動。
確かに、この悪魔と名乗る男は現実に生きている。
いろいろな思考に沈むユリを見て、悪魔はフッと笑った。
「…そんなに信じられませんか」
「当たり前、じゃない」
。
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