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ユリが俯いたままボソリと返事を返すと、クスクスと柔らかな笑い声が聞こえてきた。
「もっと慌てるものじゃないですかねぇ、悪魔来訪というのは」
ココアを一口すする。
「慌てたじゃない」
「いや、さっきの君は冷静な顔をしていましたよ。私も少し驚いてしまって、対応が遅れました」
誉められているのかよくわからないことを言われながら、ユリは俯いた顔を少しだけ上げた。
さっきのように黒い羽根はない。
テーブルにコトリとコーヒーカップを置く手は手袋をしておらず、白くて滑らかで優美。
なんというか…。
「…綺麗」
そう、綺麗だ…って。
ユリがほぼ無意識で口に出した言葉は、悪魔にしっかりと聞こえてしまったようだ。
「悪魔にむかって綺麗とは、つくづくおかしな人だ」
どうやらこの悪魔はスキンシップが行き過ぎのようだ。
何かと密着してくる。
やはり物音を立てずにいつの間にかユリの隣に移動してきた悪魔は、さっきまでカップの取っ手を握っていた指でユリの顎を掬い上げた。
「…っ」
意外に長い白銀の髪が、ユリの頬を擽る。
再び近くで見ることになった精悍な悪魔の顔に、また心臓が高鳴る。
我ながら面食いだ、とユリは思ったが、一高校生には刺激が強い。
ましてや密着するほど親しい異性は今までいなかった。
。
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