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「ち、近いっ…」
「これくらい普通の内ですよ」
オカルトに全く興味がなく、ましてや信じてすらいないユリには悪魔の撃退法などわからない。
しかもコレはかなり性悪とみた。
「雪螺(セツラ)と申します」
「はい?」
反らしたユリの顔を何気なく自分の方に向かせながら悪魔はいった。
「君は?」
「は?」
「私は名前を君に教えました。君も名乗るのが常識でしょう?」
別に教えてくれと頼んだ覚えはない、と心の中で悪態をつきながら、ユリは無言を決めこむ。
雪螺と名乗った悪魔は、ユリの手の中からスルリとココアのマグカップを奪うとココアを少し口に含んだ。
そしていかにも不味そうに舌を出して眉を寄せる。
「やはり甘いものはいけませんね」
その表情さえ絵になるような雪螺は、余裕綽々な笑いを見せた。
いろんな笑い方をするやつだ。
「さあ、名前を言って」
雪螺の冷たい指は、解きほぐすようにユリの唇を撫でる。
ユリはせめてもの抵抗に、顎を掴んでいる雪螺の片手を両手で離しにかかった。
だが、どんなに力を込めても雪螺の手はピクリとも動かない。
表情もさっきのままだった。
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