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「可愛い抵抗ですね」
全く離れる気配がない。
ユリは諦めて朧気な記憶からなんとか引っ張り出したことを言ってみた。
「…あんたさ、例えば木の杭とか、清水とか持ってきたら逃げてくれる?」
「それは吸血鬼でしょう。我々はそんな物では死にません」
「十字架も?」
「ええ」
「はぁ…」
案の定撃沈して、ユリは盛大なため息をついた。
どうしろってのよ。
ただの女子高生に大の男、しかも悪魔ときた。
非常に危険性が高い。
高すぎる。
「あたしが名前を教えない、って言ったら?」
名前を教える。
互いに呼び合うことは、契約。
自分が名前を教えたヤツは、一生記憶に残ったまま。
ユリはその悪魔、雪螺を記憶に残すことが嫌だった。
普通でいたい。
けれど、そんな願いが悪魔に届く訳もなく。
雪螺は酷く美しい、凍てつくような微笑をユリに向けた。
「君に拒否権など存在しない」
どうしても教えないと言うなら。
と、今度は楽しそうな笑顔をして、ユリの顎を固定したまま顔をゆっくり近づけ始めた。
「な、な、なっ…!?」
どっかの少女マンガか少年マンガに出てきそうなほど整った顔が、互いの息が触れるほどの距離にある。
心臓が破裂しそうなほど鼓動を打ち、喉に何かつまってしまったように言葉が出てこない。
。
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