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「名前を言えば、止めてあげましょう」
柔らかく澄んだ金色の瞳に見つめられて、身動きがとれない。
絶対腹黒だ、コイツ。
と心の片隅でそう言って余裕をつくろうとしたが、こんな経験のないユリには無理だった。
いつの間にか、唇が触れる寸前のところまで雪螺の顔が接近している。
恐ろしく強引な悪魔に、ユリはどう太刀打ちしていいか全くわからなかった。
「5秒待ちましょう。それでも言わないと言うのなら、たっぷり苛めて差し上げます」
「え、ちょっと、まっ…!」
「1」
この野郎…!!
ユリが逃げられないように腰に手を回した雪螺は、唇同士が当たるか当たらないかの絶妙な距離で数を刻み始めた。
こうなってしまえば、ユリの回答は2択に強制的に絞られる。
どうすれば…。
「2」
考えを巡らせている間でも、雪螺は容赦なく時間を刻む。
絡められた視線と直に感じる吐息が思考を弛くさせた。
「3」
「っ…」
あと2秒。
名前を教える。
何かされるのが嫌なら、もうそれしか選択肢はなかった。
しかし、緊張で掠れて声が上手く出ない。
「4」
極端に顔が近くにあるせいで口元は見えない。
けれど、雪螺は笑っている。
ユリは確信していた。
。
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