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深夜零時、暗い公園のベンチに一人寝転がっている男がいた。年齢は20代後半。ベンチで寝転がるにはあまりふさわしくない立派なスーツを着て横になっていた。
男は身長が長くベンチから足がはみ出した状態でかれこれ三日間このベンチで寝泊まりしていた。
いわゆるホームレスというものだ。
立派なスーツはよく見るとベンチの砂で汚れている。
「くしゅん!!」
「っっはっくしゅん!!」
男のくしゃみが公園に響き渡る。
もう十二月となるのに掛毛布の一枚もなくスーツのみで寝ている男は当然風邪を引き込んでいた。男の顔は青白く、今にも凍え死にそうな様子である。
「寒ーいよ…死ぬ…死にそう…つか死ぬって。」
「誰か…って 助けてなんかくれないよなぁ。俺…俺のこと誰も知らないもんな。見ず知らずの人間なんか誰も助けねーよな。そりゃそーだ、だって俺だって助けねぇもん。こんな俺みたいな…記憶を無くした…」
素姓のしれない男。
「こんな厄介なやつ。生きててもしゃーないからこんななってんのかなぁ。ならいっそ、一思いに殺してくれりゃー楽なのに、さ」
なぜこうも世の中というのは冷たいのだろうか。男は世の中を皮肉ったような顔をして笑う。
「それか、こんな世界が滅んじまえばいいんだ…」
俺だけを残して滅んでしまえ、と祈り目を閉じても男の周りは何も変わることはない。
体も心も寒い、ただそれだけだった。
ポッ
ポッ
ポッっと男の顔上に何やら非常に冷たいものが降ってきた。
男が目を開けると白くふわふわとしたものが無数に天を舞って降りてきていた。
「雪…か」
男は目を細めて笑う。頬に降りてきた雪はただの水に変わり頬を伝って落ちる。まるで男が流した涙のようだった。
「死ぬときくらい涙を流せってか?」
男ははぁっと白い息を吐いて呟く。
「俺のために泣くなんてそんな余分な水分はもう残ってねぇよ…。」
神様…もしいるんだとしたら。
「そうだな…俺のために泣いてくれる人に会わしてくれ。」
死ぬ覚悟ならできている。
けれど自分がわからない俺に、せめて俺が分かる人間に。
「会いたい…」
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