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―――そこは、まさに黒ずんだ血の川だった。それでは、さしずめ二人は地獄の番人か。生き残るために川を渡ろうとする人間を、いともたやすく沈める。
ただ、二人の会話から推測すれば、生き残る人間もいるようである。やはり……ただの番人ではないのだ。
「……誰だお?」
その時、僕は人の気配を察知した。まだ生きている、それも、紛れもなく人間である。
「……隠れてるのかお? 君、見えてるお」
「ごごごめんなさい! ごめんなさい、ごめんなさい!」
まさに頭隠して尻隠さず。残飯詰まったゴミ箱に隠れる影へ近寄って肩を叩けば、そこには居直ってひたすら土下座する小さな影があった。
パニックになっているのか、そうでないのか全くわからない。パニックになった人間ならまずこんな素晴らしい土下座は出来ないだろうが、しかし頭の中は絶対パニックしているだろう。
「ブーン、どうする?」
物珍しげに眺めていた僕の後ろから投げ掛けられたその質問に、僕は刹那の躊躇いもなく答える。
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