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私立聖陵学園。
そこに通じる並木道を、曽根川ひかるは歩いていた。
学園の者が見れば、そのネクタイの色から一年生だということがわかるだろう。
そして親しい友人が見たのであれば、いつもはのんびりとしているひかるが、何かに怯えるようにせかせかと早足になっていることに気付いたに違いない。
並木道の半ばまで来たあたりでひかるは歩調を落とすと、小さく息を吐いた。
その可愛らしい顔立ちから、ときには少女と間違えられる童顔を空に向け、少しだけ乱れた呼吸を整える。
視線の先では、澄みきった青空に綺麗な真っ白い綿菓子のような雲が、ゆっくりと身を任せるようにして穏やかに流れていた。
(なんだ、いつもと変わらないのんびりした一日じゃないか)
一日と言ってしまうにはいささか早い気はするが、ひかるは朝から波立っていた心が少しだけ穏やかになっていくことに安堵した。
なにせ今日は、朝から暗鬱とした気分だったのだ。
理由は単純。
いつも見ているニュース番組の、最後に決まって流れている星座占いのせいだ。
今日の最下位は乙女座。
そしてひかるは乙女座だ。
『今日は一日波乱の予感。朝から心乱され、最悪の一日となるでしょう』
なんて元気いっぱいのお姉さんの声に断言され、ただでさえ小柄な身体をさらに縮ませ、まるで外敵に怯える小動物のような心境で家を出たのだ。
「あの占い、普段は当たらないくせに、悪い時だけしっかりと当たるからなぁ」
ため息まじりにつぶやき、肩を落とす。
けれど、いつまでもこんな所で落ち込んではいられない。
ひかるは少しだけ気合いを入れると、転んだり何かを踏みつけたりしないよう、辺りに注意をはらいつつ歩き出した。
しかし、そんなひかるの後ろ姿を見つめる者が居ることを、ひかるはまだ、知らない。
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