その一日の始まりに

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並木道の先に、聖陵学園の校舎が見えてきた。 ここまで来れば、まずは一安心。 思わず安堵のため息がもれる。 学園には清掃業者掃除が入っているので、学園内とその周囲は清掃がゆきとどいているから動物の排泄物を踏みつける心配は少ない。 それに校門には警備の人間が立っている。 ここまで来れば通勤ラッシュや人混みに紛れて痴漢をしてくる怖いおじさんは居ないし、コートを広げてその中身を見せようとする変質者だって居ないのだ。 (ぼくは男だってのに) 幾度か体験してしまった苦い記憶に憤慨し、顔をしかめる。 そして落ち込む。 (ぼくがもっと男らしかったらなぁ……) 顔を下げ、とぼとぼと歩いていると、ひかるは後ろから肩を叩かれた。 「ひかる、おはよっ」 「わっ!」 突然肩を叩かれたことに驚き、ひかるは声を上げて足を止めた。 そして振り返り、声を掛けてきた者の姿を見て、本日何度目かわからないため息をつく。 「愛流ちゃん、驚かせないでよ」 「驚かすつもりなんてなかったんだけどね」 そう言って笑うのは天見愛流。 ひかるのクラスメイトだ。 小柄なひかると同じくらいの身長で、その可愛らしい笑顔と明るい性格から、男女を問わず人気が高い。 気を取り直して再び歩きはじめたひかるの横に並び、愛流も学園へと向かう。 「それよりどうしたのひかる。なんか元気なさそうだけど」 ひかると並んで歩く愛流の頭上には、今日もトレードマークのアホ毛がぴょこんと跳ねている。 歩くたびに動くそれは、まるで今の愛流の気持ちを表すかのように、楽しそうにぴょこぴょこと跳ねていた。
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