その一日の始まりに

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二人は校門を抜け、校舎へと続く道を歩いていた。 その道の両脇には手間をかけて綺麗に刈り込まれた植木が続き、校舎の少し手間には、この学園のシンボルのような存在になっている美しい噴水があった。 (相変わらず場違いだよな、ぼく) この私立聖陵学園は、古くから続く由緒正しい学園としてしられている。 校舎こそ改修され真新しいものに変わっているものの、それを取り囲む広大な敷地や、一朝一夕では育まれない壮大で優雅な木々が、その歴史を雄弁に物語っていた。 それ故にこの学園に通わせることがステータスという風潮が未だに存在し、富裕層からの支持も高い。 政治家や官僚、会社社長や重役などを親にもつ者は掃いて捨てるほど居るし、旧家や実際の貴族の血筋をもつ者ですら居る始末だ。 そんな中、ひかるの父親は至って普通のサラリーマン。 母は専業主婦。 いわゆる庶民だ。 ひかるはクラスメイトからのさよならの挨拶に、「ごきげんよう」と言われたとき、昔のテレビ番組のことかと一瞬本気で考えたほどだ。 世界が違う。 ひかるがそう思ってしまうのも無理はない。 もちろんひかるのような一般人も多数居る。 しかしそれは割合で言ってしまうと、三割ほどと分が悪い。 しかも校風からして格式高いので、いつの間にか三割側の人間も朱に染まるように紅くなっていた。 ひかるはまだ染まりかけ。 時折思い出したように身の置き場の無さを感じてしまうのも、無理からぬことだった。
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