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(それにしても、爆弾はないよね)
某中東の国ならともかく、この日本で、しかもなんの取り柄もない高校生を狙って誰が爆弾を仕掛けるだろうか。
いくらテロリストだって、そこまで暇じゃないだろう。
ひかるはそう考えると、あまりに非現実的な言葉に一気に冷めてしまった。
何も言わずに下駄箱の扉に手を伸ばす。
「あー……。今は開けない方がいいんじゃないか?」
歯切れ悪そうに静止する達也を無視し、ひかるは扉を開けた。
もちろん爆発なんておこらない――が。
カチャリ、パタン
「…………」
ひかるは開いた下駄箱から何も取り出さず、流れるように扉を閉めた。
そして閉めた体勢のまま固まった。
『見た?』
ひかるがそう聞くより早く、
「ええええええ! ひかる今のちょっと何いいぃぃぃい!?」
すぐ後ろで愛流の声が爆発した。
「だから言ったんだがな」
恐らくにやけながら言ったであろう達也を振り返る余裕は無い。
ひかるの網膜には、ほんの一瞬だけ見えた光景が鮮明に焼き付いていた。
(ぼくの上履きの上に四角い物体が――)
もちろんひかるはその物体を正確に理解していた。
美しい薔薇の柄をあしらった上品な封筒に、
『親愛なる曽根川様へ』
と、書いた人間の性格を表したかのような几帳面な文字。
これが果たし状である可能性は、まず、無い。
「やはり入っていたか。――恋という名の爆発……が」
キザったらしくおどける達也をつっこむ余裕は、無い。
「ねえちょっとひかるぅぅぅぅぅう!」
腕を掴んでガクガクと揺らす愛流の声を、ひかるはどこか遠いものに感じていた。
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