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数時間後。
僕と夢衣は、藪のかかったフェンスの前に立っていた。
フェンスには【立ち入り禁止】の看板。
繋がれた小さな手のひらから伝わる温もり。
夢衣は不安そうに僕を見上げ見つめている。
僕はその小さな手を、壊さないようそっと引き寄せた。
夢衣の固まった体。
硬直した頬。
僕はそっと夢衣のほっぺに手をあてた。
かすかな息づかい。
夢衣はなされるがまま僕を見上げている。
僕は無言で目を離すと、破れたフェンスの一角に夢衣を誘導していった。
破れたフェンスの合間からは、深く繁った藪のジャングルが覗いている。
その前まで行き、立ち止まった僕を結衣は見上げた。
どうするのと言う無言の質問。
僕は唐突に彼女の背中に手を回すと、無言のままお姫様抱っこで夢衣を持ち上げた。
「あっ!」
吐息のように微かに漏れた夢衣の声。
でもすぐに口を紡ぎ、僕を無言で見つめる彼女。
僕は真剣な表情のまま目線を離すとフェンスに向きなおる。
腕の中で、僕の横顔を見つめ続ける彼女。
僕は夢衣を抱いた格好のまま、フェンスに手をかけよじ登り始めた。
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