69人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
風鈴夏
僕らがまだ子供だった時代、その季節は特別な宝ものだった。
彼女が来るのは決まって、日差しの強いこの季節。
夏休み。
風鈴が優しく、彼女の訪れが間近なのを知らせてくれる。
従妹の夢衣(ゅぃ)。
彼女の母親の実家は、僕の住んでる町の近くにある。
僕は決まってこの季節、祖母の家に遊びに通った。
セミの声がうるさい、雑木林の中に祖母の家はあった。
縁側(エンガワ)で麦茶をそそりながら、あどけない素振りでストローをかき回す夢衣がいた。
時折、頭上に吊るされた風鈴がやさしな音を奏でるたび、彼女の長い黒髪が、やわらかく風にそよぐ。
チャリンコを押す僕の姿を見つけた彼女は、途端に笑顔になって僕をむかえてくれた。
そのあどけない笑顔を見るだけで、自然と僕も笑みがこぼれた。
僕と彼女には秘密の遊びがあった。
僕は、彼女をおんぼろ自転車の荷台に乗せると、決まってその場所に向かった。
秘密基地。
山の中腹で見つけた洞穴に、僕はいっぱいの宝ものを集めていた。
僕はそれを彼女に自慢するのが、とっても好きだった。
彼女はいつも僕の自慢のお宝を、物珍しそうに目を輝かせて見てくれた。
最初のコメントを投稿しよう!