風鈴夏

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僕は自慢になって、その一つ一つを彼女に説明した。 山で見つけた宝の地図にコンパス。 空の薬莢(ヤッキョウ)。 カラフルなガラスビンに、 捨てられていたマンガ本。 特にお気に入りなのが、迷子の子犬を助けた時に貰った、純白の貝殻。 夢衣と同じ歳くらいの少女に貰ったその貝殻だけは、夢衣は気にいってくれなかった。 その話をした時、夢衣はいたずらっぽく僕にこうたずねた。 「その子かわいかった?」 僕はその問いに「まぁまぁ」とだけ答えた。 それから僕達は無言で、拾ってきたマンガ本を読んだ。 僕は時たま笑い声をあげていたが、夢衣は終始無言でマンガ本を見ていた。 日が傾き始めそろそろ帰ろうかってなった時、始めて夢衣が言葉を発した。 「かっちゃん・・・ 」 独り言のような声に、一瞬自分の事だと分からなかった。 「ん? なに?」 「宝物一つもらってもいいかな?」 僕は少し考えてこう聞く。 「どの宝ものが欲しいの?」 彼女は意外なものを指した。 無言で指差したその先には、ひときわ白く輝く貝殻があった。 僕は興味なさそうにこうつぶやく。 「そんな物でいいの?」 ただの貝殻だよってニュアンスを込めて。 でも彼女は一言「それがいい」と言った。 僕が迷っていると、彼女の責めるような声が聞こえた。 「だめなの?」 僕はそれを貝殻というより、犬を助けた勲章だと思っていた。 でも夢衣にならあげてもいい気がした。 「大事にしてね」 そう言って夢衣の小さな手に、その貝殻をのせる。 夢衣はそれを大事そうに両手で包みこんだ。 それから僕達は、夕日で赤く染まった木々の合間をぬって、来た道を帰った。image=401369827.jpg
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