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軒先に置かれた縁台の上で、夢衣はちょこんと座っていた。
両手を囲うようにして、大事そうに何かを包んだまま、それを見つめている。
僕は慣性にまかせ夢衣の前までチャリを泳がせると、ブレーキをかけた。
年期の入った相棒は、キッキッとすすり泣きをあげ、小刻みに震えながら止まる。
タイヤの中心、スポークの間で、カラフルなハブブラシだけがクルクルと回っていた。
夢衣は思いだし笑いをするように笑むと、見上げるようにこちらに目線を向けた。
変わらない無垢な笑みがあった。
でもその時の僕には、いつもと少し違って見えた。
恥じらうような夢見るような、そんな目元に吸い込まれるような感覚を覚える。
僕は内心ドキドキしながらも、平常心をよそおって声をかけた。
「おはよう」
なぜか普通に出来たか心配になった。
そんな内心の葛藤を知ってか、知らずか、夢衣はそれに答えるようにうなづいた。
「うん」
こくりとひとつ頷いて、じっとこちらを見つめる夢衣。
全てを見透かすようなその眼に、僕は目線を外せず、再び鼓動を速めた胸にどうする事も出来なかった。
自分の体が自分でなくなったような感覚。
なんでドキドキしてるのか分からなかった。
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