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ロビーからは中庭が見え、そこには、ほほえましい家族が居た。
父と母、娘、少し若めのお爺ちゃん、お婆ちゃん。
夫婦の間には小さな娘が居て、ハシャギながら中庭の道を跳びはねるように歩いて行く。私はロビーのソファーに腰を欠けてその様子を眺めていた。
ふと、その祖父母がこちらを見た。何故かその二人の顔を見た瞬間体が異変を察知した。
私は急にその場に立ち上がり、腹部を何者かに強く強く押されながら後退りを始め、数歩下がったところで耐え切れず仰向けに倒れた。
体に力が入らない。
手があらぬ形で固まった。
口が閉じない。
舌が動かない。
目が裏返る。
何かの発作のようにピクピクと全身が波打つ。
まるで脳性麻痺の様だ。
突然の事に周りに居た他の客が私を取り囲み、円陣が出来た。
その中に、あの中庭にいた老夫婦の姿が見えた。私の手はあらぬ形で固まったまま、その老夫婦を手招きした。
老夫婦は手招きに応じて私の元へ歩み寄って来た。
奥さんが私の上半身を起こし、旦那さんが私の傍らに膝を着いて私の手をぎゅっと握った。
何故か涙が溢れて止まらない。
すると何処からともなく医者と看護婦がやって来て私の腕に注射をした。
少しすると薬が効いたのか体が楽になった。
私という人格はあるのだが、他にもう一人の人格も存在していた。
そのもう一人の人格が私の口を動かす
「お父さん、お母さん…あやな…帰ってきたよ…。」
その言葉を聞いた瞬間、二人の老夫婦はワッと泣きだし、私にしがみつきオンオンと声をあげて泣き出した。
「ごめんね…ずっと待たせてゴメンね…。」
私ではない誰かは”あやな”という名前であり、脳性麻痺であり、父と母に逢いたい一心で私にのりうつったようだった。
父は涙ながらに、
「あやな…アイスを食べに行こうね。」
と立ち上がった。
母は
「あやな!あやな!」
と嗚咽の様に名前を呼び続けた。
夢の中では私にも娘がおり、その娘が私にしがみつき「ママ!!ママ!!」と泣きじゃくっている。
娘の涙の温かさが解る。
夢なのに有り得ない程リアルに涙の味までする。
「ごめんね…少しだけママを貸してね…」
そういってあらぬ形のままの手で娘の頭を何度も撫で続けた。
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