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始まり
あやなには、とても綺麗なお母さんがいた。
お母さんは美容師をしていて、自分のお店を持っていた。
お店には、メガネをかけスーツ姿の小綺麗な中年男性がやって来る。
その人があやなの父親である。
頭では解っているが、お父さんとは呼んではいけないと母が言う。
だからあやなはいつも「おじさん」と彼を呼ぶ。
おじさんはいつも優しくて、あやなと遊んでくれる。
けれど夕方になると決まって違う家に帰ってしまう。
昼間だけのお父さんなのだ。
お母さんは近所でも評判の美人で、お母さんに逢いに来る男の人は沢山いる。
いつもお店の待合室はそんな男の人で満室だった。
お母さんは、その男の人達と嬉しそうに話ながら、髪を切ったりお茶を飲んだりしている。
あやなは、いつも店の奥の小さい部屋に居て、おじさんと二人で隠れるように遊んでいた。
おじさんの来ない日は、暗い小さな部屋に一人閉じ篭りっきりで古ぼけた人形と遊ぶ。
お店に出ると母が物凄い剣幕で怒るからだ。
ドアの隙間から店の中を覗いても酷く叱られる。
母がドアを開けるまで何があってもドアを開けてはイケないのだ。
大きな声を出してもイケないのだ。
それでもあやなは母を慕った。
昼食があたらない日があっても、あやなには母しか頼れる人は居なかった。
だから、いつも母に嫌われるような行動や言動は我慢した。
いつも母親の顔色を伺い、母の言うなりに暗く狭くジメジメした部屋の中で一人で遊んだ。
あやなが三歳の頃の話である。
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