~プロローグ~

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十月もなかばを過ぎたばかりだというのに、その日は北寄りの風が強かった。 街は日没を待って徐々に色彩を失い、がらんとした高層ビルの隅や、人気のない路地裏で、枯葉が上空に巻き上げられた。 人々は砂や埃に目を細め、追い立てられるように家路を急いでいる。 "魔王"は、しかめ面で行き過ぎる人間の群れを眺めながら、本格的な冬の到来を予感していた。 長きに渡る雌伏のときは、終わりを告げようとしている。 知能犯罪において、確実な成功を収めるためには、慎重に完璧な計画を練り上げ、それを大胆不敵に断行しなければならない。 時期、場所、犠牲者の選択にも万全を期して望む。 絶対の条件が整うまで、"魔王"は、幾年もの月日を準備に費やしていた。
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