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少女は大発展を遂げた町並みに、少なからず驚いていた。
少女がもっと幼かったころには、四車線の道路も山のように高いビルもなかった。
感嘆のため息は、スクランブル交差点を雑然と行き交う人々に踏みつけられて消えていった。
少女の手には焦げ茶色の革張りのケースがあった。
年季が入ったケースの中身は、腕のいい職人の手によって作られた国産バイオリンだった。
ストラドやガルネリのような神価格化された価値はないが、少女にとっては命の次に大切な魂の名器だった。
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