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ビルの屋上から電線を滑り降りてなんとか駅にたどり着いたサンダーは、長距離列車に忍び込んでようやく危機を脱した。
しかし、列車の終着駅は遥か北の町。
薄着のサンダーには寒すぎた。
「とりあえず暖を取らなきゃあ。
あとはなんか上着も手に入れなきゃな……」
列車の中でくすねた薄手のシャツを羽織ってはいるものの、雪が降る中、タンクトップにシャツでは裸同然だ。
それにも増して、逃亡に使った革靴の底には穴が空いている。
そこから雪と水が入り込み、爪先の感覚は既に失われている。
駅から人目を避けるように歩いてきた路地裏。
あまり良さそうな店は見当たらない。
ゴロツキどものたまり場ではなく、かといって客が多すぎる店でも困る。
選り好みをしている状況ではないことは分かってはいたが、指名手配されている身としては安易に判断は出来ない。
と、ゴミが溢れて路上に転がっているゴミ箱の先に、小さなネオンが見えた。
『ロイヤル』
店の名前に比べて随分と貧相な店構えの店だったが、店内からは暖気とうまそうな匂いが漂っている。
「ここにするか」
サンダーは静かにドアを開けた。
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