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ドアの上に備え付けられた古びた銅の鐘がカラコロと音を立てる。
店内は淡いオレンジ色の照明に包まれていた。
壁際の暖炉の炎が光と影をちらちらと揺らす。
鶏肉の焼けるニオイと酒や煙草のニオイがサンダーの鼻腔になだれ込んでくる。
「いらっしゃい」
カウンターの奥から浅黒い肌のマスターが声をかける。
「……なんか、あったまるモンと食いものをくれ」
サンダーはマスターの前のカウンターに腰かけながら言った。
カウンターまで歩く間に軽く店内を見回したが客はさほど多くない。
客層も特におかしな連中は見られなかった。
「ウォッカかい? それともスコッチがいいかい?」
マスターが背後の棚から深草色の瓶を持ち上げて言う。
「ああ、なんでもいい。
一杯であったまるやつなら」
「その様子だと、随分凍えたみたいですね。
この町は冷えますからね。
……はい、どうぞ」
慣れた手つきで酒をグラスに注ぐと、コトリと小さな音を立ててサンダーの前に差し出す。
浅黒い肌に彫りの深い顔。
パッチリとした二重の瞳に豊かな口ひげ。
その顔つきはこの土地出身の者には見えない。
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