イントロダクション

2/8
前へ
/68ページ
次へ
*** 男が走る。 2段飛ばしで階段を駈け上がり、歪んだ鉄の扉を蹴り飛ばす。 蝶番がギギと唸り声をあげて弾け、ドアが外側に倒れる。 そこから曇天の淡い陽光が射し込んでくる。 男は一瞬左右を確認し、屋上に飛び出した。 給水タンクと旧式の配電設備などが並んでいる。 男は駆け続ける。 「止まれ!」 背後から複数の声と足音。 追手が迫っている。 ためらっている余裕はない。 「うおぉぉぉッ!!」 全速力で男が走る。 目標は隣のビル。 このままの勢いで飛び移る。 距離は正直わかんねー。 でも飛ぶしかねぇ! 屋上の端の黒い鉄板。 足がそこにつく瞬間、体重を前方へ向けて全ての力で踏み切る。 「いっけぇぇぇぇぇッ!!」 華奢な身体が宙を舞う。 紙のようにふわりと風に乗って男は飛んだ。 届くか届かないかの賭け。 届いたとして、それで逃げ切れたわけではないが、賭けに負ければ待っているのは死だけ。 男の両腕が泳ぐように空気をかく。 届け、届け届け届け!!!  
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

96人が本棚に入れています
本棚に追加