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男が走る。
2段飛ばしで階段を駈け上がり、歪んだ鉄の扉を蹴り飛ばす。
蝶番がギギと唸り声をあげて弾け、ドアが外側に倒れる。
そこから曇天の淡い陽光が射し込んでくる。
男は一瞬左右を確認し、屋上に飛び出した。
給水タンクと旧式の配電設備などが並んでいる。
男は駆け続ける。
「止まれ!」
背後から複数の声と足音。
追手が迫っている。
ためらっている余裕はない。
「うおぉぉぉッ!!」
全速力で男が走る。
目標は隣のビル。
このままの勢いで飛び移る。
距離は正直わかんねー。
でも飛ぶしかねぇ!
屋上の端の黒い鉄板。
足がそこにつく瞬間、体重を前方へ向けて全ての力で踏み切る。
「いっけぇぇぇぇぇッ!!」
華奢な身体が宙を舞う。
紙のようにふわりと風に乗って男は飛んだ。
届くか届かないかの賭け。
届いたとして、それで逃げ切れたわけではないが、賭けに負ければ待っているのは死だけ。
男の両腕が泳ぐように空気をかく。
届け、届け届け届け!!!
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