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……ザッ。
男の腕が隣のビルのへりを掴む。
まだ終わりではない。
早くよじのぼらなければ。
追いつかれたら意味がない。
握力が身体を支え、上腕が身体を持ち上げる。
肩がへりより上に上がったところで、筋力を少しずつシフトする。
上腕、腹筋、背筋。
これはただの懸垂ではない。
この逃亡劇を完遂するには、よじのぼってからさらに逃げる必要がある。
その為の体力も維持しなくてはならない。
男は身体を揺らし、タイミングを合わせて壁を蹴った。
膝のバネが衝撃を吸収、放出し、男の身体が浮き上がる。
指先に力を込め、ヘリから離れないようにしながら、壁を蹴った反動を利用して体重ごと身体を回転させる。
まるで体操選手のような身のこなしで男はくるりと屋上に降り立った。
隣のビルの屋上に。
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