96人が本棚に入れています
本棚に追加
《侵入者に告ぐ!
私は、アッサム・ベンティングだ。
この工場の所有者であり、お前が盗んだその娘の所有者でもある。
今すぐその娘を返せば、命は助けてやろう。
さもなければ死んでもらう!
工場は包囲している。
逃げることは不可能だ。
おとなしく出てこい!》
ビリビリと窓を震わせる程の音量で、年配の男の声が響く。
どうやら、雪上車で工場を囲んでいるらしい。
窓からのチラリと覗くと、厚手の革のコートをまとった背の低い男が、まばゆい光を放つ投光器の足下で拡声器を持ってわめいているのが見えた。
その周囲には、マシンガンを持った手下達が大勢集まっている。
「……助けるつもりなんて毛頭ねぇじゃねーか。
しゃあねぇな」
サンダーは苦笑いで少女に向き直る。
「戦わずに逃げられそうにない。
ちょっと行ってくるから隠れてるんだ。
静かになるまで出てくるんじゃねーぞ?」
「でも……」
「"でも"じゃねぇ。
俺は嬢ちゃんを助ける。
待っててくれ」
サンダーは少女を鉄の箱の中に入らせると、割れた窓から吹き込んだ雪を一握り箱のフタの隙間に押し込んだ。
「鍵の代わりだ。
嬢ちゃんの力でこいつを凍らせとけば誰にも開けられないだろ」
「……わかった。
でもサンダー、死なないでね」
「当たり前だ。
俺を誰だと思ってんだ?」
歯を見せて笑うが、箱の中の少女が笑い返してくれたかどうかはわからない。
サンダーはゆっくりと工場の正面のドアに向かった。
最初のコメントを投稿しよう!