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外の様子に恐れをなして逃げ出しのか、あるいは全員が外に出ていたのかはわからないが、工場内部は嘘のように静まり返っていた。
「嬢ちゃん、終わったぜ」
サンダーが声をかけると、ガタガタと騒々しい音を立てて少女が飛び出してくる。
「サンダー!!」
足音を響かせて少女が駆け、返り血にまみれたサンダーに抱きつく。
「おいおい、汚れちまうぞ」
「無事でよかった」
少女はサンダーの腹辺りに顔を埋めて泣く。
怖かったのだろう。
小さく震える肩に手を乗せ、その頭を、髪を撫でてやる。
「俺は簡単にゃ死なねーよ。さあ、早くここを離れよう。
英雄が来る前に」
そうだ、この子を安全な所へ連れていかないと英雄と戦うことは出来ない。
能力者同士の戦いとなれば、さっきのような兵士との戦いとは訳が違う。
「雪も止んだし夜も明けた。
さっさとこんなところオサラバしようぜ」
サンダーが笑い、少女もニッコリと笑顔を返す。
まだ空気は冷たいが、窓から射し込む朝日が2人をやさしく照らしていた。
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