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青い空。白い雲。どこまでも続く砂浜。
あるいは。
深い森。美しい丘陵。足元に咲く名も無い花。
僕の前には、そんな写真が載った本が、何冊も積まれている。
これは、僕の趣味だ。
パンフレットや旅行ガイド、写真集や風景画なんかを見て、知らない世界に思いを馳せる。
ここから出ることもままならない僕は、こうやって気持ちを慰めるしかないのだ。
「紅茶、置くわね」
「あ、ありがとうございます、先生」
「いいえ。
どうかしら? 新しい本、気に入ってくれた?」
「あ、はい。…その、…きれいです」
立花先生は「良かったわ」と微笑んで、僕の肩越しに、僕の手元を覗き込んだ。
開いたページは、夏の避暑地。高原のペンション。
「素敵ね」
「…はい」
それは僕にとっては、ただ、憧れるだけの場所。
「ね、陸くん」
「…はい」
横を向くと、いつの間にか立花先生は手元ではなく、僕の顔を見ていた。
至近距離で目が合って、体が変な風に緊張する。
「旅行に、行ってみない? 一緒に」
「……え?」
先生が発したのは余りに予想外の提案で。
僕は言葉の意味を飲み込めず、先生の顔を見つめ返した。
立花先生は、悪戯っぽく笑ってみせた。
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