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声の主は若い男の人で、私に向かって微笑んでいた。
右手には茶色い傘を自分に差し、左手には私に黒い傘を差し出している。
「…」
無言でいると普通は嫌な顔をするようなものなのに、目の前の人は優しい笑みを浮かべたまま、私の言葉をまっていた。
「…寒い」
「えっ!!」
やっと出たのはお礼の言葉なんかではなくて、人の優しさに触れた事で実感した寒さの言葉。
そういえば今は12月だったっけ、なんて思う。
男の人は焦りながらも私に傘を持たせると、
「おいで」
風邪をひいたら大変だからね、と言って私の手をひいた。
普通だったら危ないとか思うんだろうけれど、この時の私は何もかもどうでもよかったし…この人が悪そうに見えなかったから。
黙って手をとられていた。
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