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1.天界某日
12月は、人間救済強化月間だった。
この時期になると、人間は荒む。
クリスマスという一大イベントに恋人が出来なくて、ヤケを起こして自殺、放火、通り魔。
年を無事に越せないと悲観して、自殺、放火、通り魔。
受験勉強が嫌になって、自殺、放火、通り魔…。
とまぁ、これらは一例だが、普段よりも事件が多くなり、死亡する者も多くなる。
天寿を全うした魂とは違い、そういう死に方をした魂は、転生するのに時間がかかる。
今でさえ転生を待つ魂がごろごろしているのに、さらに増えると天界がパンクしてしまう。
なので、こりゃヤバいぞと認定された人間には、天使が派遣される。
思い留まる様に、説得をするのだ。
人間には、一人一人に担当の天使が付いている。
生まれてから死ぬまで、観察を続けるのだ。
その天使が、人間の元へ行く。
性格も何もかも熟知しているので、的確な助言が出来るようになっているのだ。
それでも事件が減らないのは、天使がサボるからである。
天使たちにとって、人間の一生を見詰め続けるのは、辛い。
朝から晩まで、変わり映えのしない毎日を見続けるのだ。
天使は気儘でもあるので、嫌になると昼寝に行ってしまうのだった。
そんなわけで、12月に担当の人間がヤケを起こそうとしたら、天使は必ず人間の元に行くことになった。
それが、人間救済強化月間。
その天界の片隅に、一人の天使がいた。
彼は天使の中では珍しく、熱心に一人の女の人生を見詰めてきた。
神様はそれはそれはお喜びだったのだが、その彼女の心も荒み始めてきた。
…幸せそうに見えても、人間の世界は色々と大変らしい。
天井に縄を設置し始めた女を見て、彼は翼を拡げた。
向かう場所は勿論、女の元―――…。
2.12月1日
天井から伸びた縄を、一人で見つめていた。
ぶらぶらと揺れて、不気味だった。
死のうと思ったのは、フラれたからではない。
前からこの世界に嫌気が差していたのだ。
父は仕事で、滅多に家にいない。
これでいいだろうと、大金を渡してくるだけだ。
遊んでもらった記憶なんか、ない。
母親は弁当を作らない。
湯水のように金を使い、「友達と会ってくる」と言って不倫相手の家に泊まる日々だ。
相手にして貰うこともあったけど、どこかよそよそしかった。
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